技 術 解 説

超精密切削加工技術について
機械技術部 市来浩一 
1 はじめに
 最近の電子産業,情報産業,光産業分野などに使用される機器やその構成要素部品は軽薄短小の傾向を深めつつあります。また,機能が高度化し,作る精度もサブミクロンまたはナノメータオーダが要求されるようになってきています。これらの要求に応える技術として超精密加工技術があります。超精密機械加工法としては,従来の加工法の高精度化が図られた切削加工,研削加工,ポリシング加工があり,その特徴を図1に示します。その他,半導体産業で盛んな化学的手法のリソグラフィ技術も超精密加工法の一つです。

 当センターでは,平成10年度に超精密加工機及び測定機を導入し,超精密切削・研削技術について研究を進めておりますので,まず,超精密切削技術について解説します。

2.超精密とは

 先ほどから,超精密という言葉を使っていますが,機械加工分野で超精密とはどのようなことを指すのかというと,明確には定義されていませんが,ここでは,通常の加工精度に比べて2桁以上の高いレベルの加工精度が得られる加工を超精密切削加工と呼びます。通常の機械加工で得られる加工精度はミクロンオーダ(0.001mmオーダ)です。つまり,超精密切削加工では,その2桁以上の精度,0.01ミクロン以上の加工精度が得られ,加工面は鏡のような面(鏡面)に仕上がります。そのため,超精密切削加工のことを鏡面加工と呼ぶことも出来ます。

 それでは,超精密加工のメリットは,

 (1) 加工精度が非常に高い製品ができる。

    ・形状精度が0.01〜0.1ミクロンオーダ

    ・面精度が最大あらさで数1/1000ミクロン

     (いわゆるナノメータオーダ)

 (2) 二次的な価値が付く加工となる。(付加価値が高まる)

    例えば,磁気ディスクの表面の加工精度を向上させることにより,磁気ヘッドとディスクのギャップが1桁から2桁精度よく管理でき,このことにより,従来より数十倍の高密度の記録が可能となるというように単に加工精度が高いだけでなく,製品そのものの価値を高めることができる。

などがあげられます。

 次に,超精密切削加工の加工法は,簡単に説明すると旋盤加工で行うバイト加工と同じ加工原理で加工が行われます。図2に超精密切削加工における制約条件を示しますが,これら制約条件は,通常の切削加工と全く変わらないことがわかります。ただし,制約条件の中で,従来ではほとんど問題にならないレベルが超精密切削加工では大きな障害となってくるということです。例えば,工具摩耗という点では,通常の切削では,ミクロンオーダの工具摩耗量はほとんど問題とはならないですが,超精密切削加工では,ミクロンオーダの切り込みが普通であるために,ミクロンオーダ,もしくはそれ以下の工具摩耗量も考慮しなければいけないということになります。

3.実際の超精密切削加工

 次に,現在の超精密切削加工について,加工の3大要素である工作機械(マシン),工具(ツール),被削材(ワーク)の観点から説明します。

(1) 工作機械

 当然,超精密切削加工にも,機械加工の基本である加工の母性原理は存在します。これは,被削材の精度は工作機械の精度が限度であり,それ以上の精度は得られないという原理です。つまり,超精密切削加工では0.01ミクロン以上の加工精度を求められるので,工作機械には,それと同等か,もしくはそれ以上の精度がなければ超精密切削加工は実現しないことになります。当センターで導入しました加工機械はナノメータオーダの位置精度を保証しており,また,熱による変形の抑制機構や防震対策などを備えています。

(2) 工具及び被削材

 工具には,一般の切削工具に要求される機能以上に,

1, 切れ刃の鋭利性

    微小切り込み(ミクロンオーダもしくはそれ以下)を可能とするため

2, 高い転写性

    工具の切れ刃部の精度がそのまま加工面に転写されるため

3, 高い耐久性

    すぐに摩耗する工具では高い加工精度が保証されないため

が必要となります。これら必要な機能を満たす工具材種としては,今のところ単結晶ダイヤモンドが適しているので,ダイヤモンド工具による切削が主に行われています。そのため,被削材は,ダイヤモンド工具が得意なアルミニウム,銅系の軟質材料やプラスチック材料などが主であり,また,製品としてはレンズやミラーなどの光学系部品が作られています。

  4.今後の超精密切削加工技術のニーズ

 表1に今後の超精密切削加工のニーズを示します。光学系部品への需要が大きいですが,マイクロマシンや金型の超精密化の需要もあり,超精密切削加工分野の発展は続くと考えられます。

表1 今後研究開発が望まれる超精密切削加工分野

超精密加工分野応 用 事 例背   景
超高精度化
 
X線関連機器
超超精密光学部品
X線関連の需要増大
光学機器の短波長化
複雑な形状の
超精密加工
各種レンズ,ミラー
 
非球面光学系の需要増
 
マイクロ化
 
マイクロマシン
 
部品の微小化,複雑形
状化
難削材の超精
密高速加工
超精密金型
特殊レンズ,ミラー
鋼系難削材,硬ぜい材
料の超精密加工の要求

  5.おわりに

 今後,機械加工分野での高精度化という要求は,不変であると考えられます。また,本文では触れませんでしたが,車の両輪の関係である計測(測定)技術も高精度化しなければいけません。当センターとしても,加工・測定の両面から超精密切削加工技術について研究開発を進めていく予定です。

参考文献

超精密生産技術大系:小林昭監修 フジ・テクノシステム

超精密加工のエッセンス:伊藤豊次 日刊工業新聞社

切削加工の軌跡:森脇俊道 精密工学会誌


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